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Ossanの研究所です。

国をつくるという仕事。

最近の日本人が書いた「新書」というのは、
大抵どこかしら薄っぺらいものが多いのだが、
この本はかなり違っていた。


読書といえば、自己啓発本に傾倒している傾向にある私が、
たまたま書店で手に取った本としては、
なかなか良い線を行っていたものだ、と、
人ごとのように思ってしまうくらいの良い本。


この本の著者、西水氏は世界銀行の副総裁を勤めた人物である。
書籍のタイトル「国をつくるという仕事」というのは、
その世界銀行の役割と世界銀行において、
著者が魂をこめて作り上げてきた役割のことである。


23年の歴史と著者の仕事を通して見えていた、
著者と出会った多くの世界の民と世界のリーダー、
その双方が著者の文学的な文章で時に美しく、
時に残酷に黒く描かれている。
「書かれている」ではなく「描かれている」のだ。


本作の最後に田坂氏が書いている、
あとがき的な部分に引用されている内容を、
ここでも引用して、本書の紹介としたい。

誰の神様でもいいから、ぶん殴りたかった。


天を仰いで、まわりを見回した途端、
ナディアを殺した化け物を見た。
きらびやかな都会がそこにある。
最先端をいく技術と、優秀な才能と、膨大な富が溢れる都会がある。
でも私の腕には、命尽きたナディアが眠る。


悪統治。
民の苦しみなど気にもかけない為政者の仕業と、直感した。


脊髄に火がついたような気がした。


帰途の機上では一睡もできず、
自分が受けた教育は何のためだったのか、
何をするために経済学を学んだのかと、悩んだ。
ワシントンに近づき、機体が着陸態勢に入っても、
鬱々としたままだった。
が、車輪がドシンと音を立てて滑走路に接した瞬間、目の奥に火花が散った。
結論が、脳に映った写真のように、はっきり見えた。
学窓に別れを告げ、貧困と戦う世銀に残ると決めた。